ひとことで言うと
データとモデルの「偏り」を、公表済みの標準化された式で数値化し、SHAP で1件ごとの予測の内訳を出す測定器です。公平かどうかの判定はしません。数値を出して人間に渡すところで止まります。
要するに、体組成計です。体脂肪率も筋肉量も骨量も出しますが、「あなたは健康です」とは言いません。しかも Clarify の場合、物差しが何種類もあって、どれを見るかは測る側が決める——公式が「これらの概念はすべてを同時に満たすことはできず、どの指標が自分のユースケースに関係するかを理解し選ぶには人間の判断が必要」と明記しています。指標を選ばずに Clarify を回しても、何も決まりません。
なぜ生まれたか
学習データが特定の層に偏っていれば、モデルはその偏りを学習し、予測で再生産したり増幅したりします。問題は「偏っている気がする」から先へ進めないことでした。公平性には複数の定義があり、定義ごとに別の式が要ります。応募者数を揃えるのか、有資格者の合格率を揃えるのか、拒否率を揃えるのか——どれも「公平」ですが、同時には成立しません。
Clarify がやったのは、この分かれた定義にそれぞれ名前と式と値域を与えて、機械が計算できる形に固定したことです。説明可能性についても同じで、協力ゲーム理論の Shapley 値に基づく SHAP を、スケールする実装として載せています。
| その前の不便 | Clarify が固定したもの |
|---|---|
| 「偏っている」が主観で終わる | 名前・式・値域を持つ指標群(CI、DPL、DPPL、DI ほか)として定義 |
| 学習前と学習後で見るものが違うのに区別が曖昧 | 学習前=モデル非依存(model-agnostic)/学習後=予測ラベルが必要と明確に分離 |
| 「なぜこの予測になったか」に答えられない | SHAP による特徴量寄与+PDP(部分依存プロット) |
| 説明が学習時の一度きり | エンドポイントに explainer を積み、推論のたびに説明を返す経路を用意 |
何に使うか
| 用途 | 使い方 | 関連する試験ドメイン |
|---|---|---|
| 学習前のデータ偏りの計測 | Processing job で pre-training bias metrics(CI / DPL / KL / JS / LP / TVD / KS / CDD)を算出。モデル出力に依存しないのでモデルが存在しなくても走る | D3 |
| 学習後のモデル偏りの計測 | post-training bias metrics(DPPL / DI / RD / AD / DAR / DRR / DCAcc / DCR / SD / TE / CDDPL / FT / GE)。多くは群ごとの混同行列から作る | D3 |
| 予測の説明 | SHAP による特徴量寄与(全体の重要度と、1件ごとのローカル説明)+PDP | D3 |
| 画像・テキストの説明 | 表形式と同じ SHAP アルゴリズムで CV(画像分類・物体検出)と NLP に対応 | D3 |
| 推論時のリアルタイム説明 | CreateEndpointConfig に explainer 設定を入れ、InvokeEndpoint が予測と説明を一緒に返す | D3 |
| ドリフト監視のベースライン | バイアスドリフト・特徴量寄与ドリフトの constraints ファイルを生成し、Model Monitor が使う | D4 / D5 |
| 基盤モデルの評価(FMEval) | かつての担当範囲。公式は Amazon Bedrock Evaluations が置き換えと明記 | D5 |
試験でどう問われるか
Clarify は AIP-C01 の主役ではありません。 この試験は生成AIアプリの実装を問うので、Clarify が単独テーマになる問題は期待できません。出るのは D3.3 / D3.4(ガバナンスと責任あるAI) のシナリオで、「バイアスと説明可能性をどう評価するか」という要件文に対する選択肢の1つとしてです。
そして最も高い確率で出るのは、Clarify が正解ではない側です。生成AI試験なので、シナリオの対象は LLM であることが多く、そのとき正解は Bedrock 側に寄ります。Clarify を正解にするのは「表形式・従来型MLの予測モデル」と書いてあるときだけ、と割り切って構いません。
| 問われ方 | 正解に寄る条件 | 引っかけの選択肢 |
|---|---|---|
| LLM の出力品質・毒性・堅牢性を評価したい | Bedrock Evaluations(公式が Clarify の FM 評価の置き換えと明記) | Clarify。「バイアス評価=Clarify」の条件反射で拾わせにくる本命の引っかけ |
| 与信・採用など表形式の予測モデルの公平性を評価したい | Clarify(pre-training / post-training bias metrics) | Bedrock Evaluations(生成AI向けで、予測モデルのバイアス検出の置き換えではないと公式が明記) |
| 「モデルを学習する前にデータの偏りを見たい」 | pre-training bias metrics。モデル非依存なのでモデル不要 | DPPL・DI などの post-training 指標(予測ラベルが要るので、この時点では計算できない) |
| 「なぜこの申込者が否決されたのか説明せよ」と規制当局に求められた | Clarify の SHAP による特徴量寄与。1件ごとのローカル説明が該当 | モデルカード(記録であって、個別予測の理由ではない)/CloudTrail(API 呼び出しの監査であって推論の説明ではない) |
| 推論のたびに説明を返したい | オンライン説明(エンドポイント設定に explainer を追加) | Processing job を都度起動する案(バッチ用の経路) |
| 本番稼働後もバイアスを見続けたい | Model Monitor のバイアスドリフト。Clarify はそのベースラインと計算を担当 | Clarify の Processing job を1回だけ回す案(継続監視になっていない) |
| 有害な出力を止めたい | Bedrock Guardrails(実行時のフィルタ) | Clarify。測るのと止めるのは別の層 |
1問拾える境目: pre-training と post-training を分けるのは「時期」ではなく入力に予測ラベル y’ が要るかどうかです。公式は pre-training 指標を「モデル出力に依存しないので、あらゆるモデルに対して有効」と書いています。したがって学習前でも学習後でも、観測ラベルだけで計算できるものは pre-training 指標。シナリオに「まだモデルを学習していない」「学習データを調達した段階」と書いてあれば、DPPL や Disparate Impact を選ぶ選択肢は自動的に外れます。
実務でどう使うか
Clarify は新規のお客様には提供されていません。公式ドキュメントの全ページ冒頭に「Amazon SageMaker Clarify is no longer open to new customers」と入っており、既存利用者は従来どおり使えるものの、新機能の追加予定は無いと明記されています。試験ガイドの In-Scope サービス表には依然として載っているため、試験対策としては概念と担当範囲を覚える価値がありますが、これから新規に採用する道具ではありません。
- 置き換え先は「サービス」ではなく部品の組み合わせです。公式が挙げているのは、バイアス指標=pandas / scikit-learn による直接計算(式が公表された標準的な算術なのでライブラリ依存ではない)、説明可能性=SHAP ライブラリ(Clarify が内部で使っているのと同じもの)、FM 評価=fmeval ライブラリまたは Bedrock Evaluations、継続監視=AWS 公開のオープンソース監視ソリューション+MLflow+QuickSight+CloudWatch。
- Clarify の成果物は S3 に残ります。 バイアスレポートの
analysis.json、SHAP のローカル値explanations_shap/out.csv、集約された global SHAP 値、PDP、そして Model Monitor がベースラインに使う constraints ファイル。監査証跡として保持義務がある場合、Clarify をやめてもこの S3 プレフィックスは消さない判断になります。 - オンライン説明はタダではありません。 説明リクエストが来るたび、エンドポイント上の explainer がモデルコンテナを呼んで予測を取り、そこから寄与を計算します。つまり推論1回に対してモデル呼び出しが上乗せされる構造です。全リクエストで説明を有効にする設計は、レイテンシとインスタンス消費の両方に効きます。
- post-training 指標の「個数」を覚えないこと。 公式本文は eleven(11個)と書いていますが、同じページの一覧表には13個並んでいます。試験で問われるのは名前と意味であって個数ではありません。
- facet(バイアスを測る対象の列)と label は自分で指定します。 Clarify は「どの属性が保護属性か」を推論しません。CDD だけは group variable も別途必要です。
取り違えやすいもの
| 迷う相手 | 切り分けの一言 |
|---|---|
| Amazon Bedrock Evaluations | 生成AI・LLM 用。公式が「Clarify の FM 評価(FMEval)の置き換え」かつ「予測(表形式・従来型ML)のバイアス検出や説明可能性の置き換えではない」と両方書いている。境界はモデルの種類 |
| Amazon Bedrock Guardrails | Guardrails は実行時に止める。Clarify は評価時に測る。同じ「有害性」を扱っても層が違う |
| Amazon SageMaker Model Monitor | Clarify は1回測る。Model Monitor はスケジュールで測り続ける。ただしバイアスドリフトと特徴量寄与ドリフトの中身は Clarify の計算そのもので、実体は Model Monitor が Clarify を回している |
| SHAP / fmeval ライブラリ | どちらも Clarify が内部で使っているエンジン。Clarify は「マネージドな Processing job としての皮」であって、アルゴリズムの独自性ではない |
| SageMaker Model Registry | Registry は版と承認を管理する。Clarify はその版が公平かを測る。Registry は測定結果を持たず、承認の材料として人間が使う |
想起チェック
Q1. シナリオに「基盤モデルの出力の毒性と偏りを評価したい」とあります。Clarify を選びますか。
選びません。Bedrock Evaluations(または fmeval)です。 公式が Bedrock Evaluations を Clarify の FM 評価機能の置き換えと明記しており、同時に「予測(表形式・従来型ML)のバイアス検出・説明可能性の置き換えではない」とも書いています。Clarify が正解になるのは後者側です。
Q2. pre-training bias metrics と post-training bias metrics を分ける基準は何ですか。
予測ラベル y’ を使うかどうかです。pre-training はモデル出力に依存しない(model-agnostic)ので、モデルが存在しなくても計算できます。post-training は多くが群ごとの混同行列から作られるため、予測が必要です。
Q3. 「否決理由を個別に説明せよ」という規制要件に対して、Clarify の何が答えになりますか。
**SHAP による1件ごとのローカル説明(特徴量寄与)**です。全体の feature importance や PDP は「モデル全体の傾向」であって、この申込者がなぜ否決されたかには答えていません。
Q4. Clarify を新規プロジェクトで採用する提案が来ました。実務上どう判断しますか。
採用しません。 公式が「新規のお客様には提供されていない/新機能の追加予定は無い」と明記しています。バイアス指標は公表された式なので自前で計算でき、説明可能性は Clarify が内部で使っている SHAP ライブラリを直接使えます。