30秒で理解
ARR(Annual Recurring Revenue)は、毎月くり返し発生する経常収益を1年分に換算した金額です。 月額契約だけでなく、年額契約や複数年契約も、同じ基準で年額にそろえて見ます。契約が現在の条件で続くときの年間規模を確認する指標です。
ARRは、毎月の定期券売上を12か月分並べた「年間の固定収入の見取り図」です。今月に年払いの入金があったかではなく、継続契約が1年続く前提でどれだけ積み上がっているかを見ます。
計算式と計算例
基本式は ARR = MRR × 12 です。MRRは、対象となる契約の料金を月額に換算して合計した値です。月額契約20,000円が8件、年額契約600,000円が2件なら、MRRは260,000円、ARRは3,120,000円です。
| 契約 | 月額換算 | MRRへの加算 | ARRへの加算 |
|---|---|---|---|
| 月額プラン 8件 | 20,000円 | 160,000円 | 1,920,000円 |
| 年額プラン 2件 | 50,000円 | 100,000円 | 1,200,000円 |
| 合計 | — | 260,000円 | 3,120,000円 |
上の例の年額契約の入金600,000円を、そのままARRに足すわけではありません。月額換算のルール、割引、返金、税、無料期間、従量課金をどこまで含めるかを固定してから計算します。
この数字が表すもの
ARRが表すのは、現在の経常契約が同じ条件で続いた場合の年間規模です。会計上の年間売上や、今後1年間に必ず入金される金額を保証する数字ではありません。Stripeも、MRRを予測可能な収益の指標であり、GAAP上の正式な収益ではないと説明しています。
| ARRの動き | 読み取れる可能性 | 次に分けて見るもの |
|---|---|---|
| ARRが増える | 新規契約、アップグレード、追加席などが解約を上回った | 新規・拡大・縮小・解約のARR |
| ARRが横ばい | 新規契約が解約やダウングレードを埋めている | 増減した顧客とプラン |
| ARRが減る | 解約、ダウングレード、未払いなどで経常契約が縮んだ | 減少額の大きい顧客・請求状態 |
合計だけでは、成長で増えたのか、既存顧客の減少を新規契約で補っただけなのか判定できません。同じ期間の増減内訳を開いて確認します。
場面によって意味が変わる
ARRは集計対象の定義で変わります。特に、固定の定期料金と、利用量や単発作業に応じて変わる売上を同じ箱に入れると、継続契約の規模を読み違えます。
| 集計の場面 | ARRに含める例 | 別に管理するもの |
|---|---|---|
| SaaSの定額プラン | 有料プランの月額料金、年額料金の年額換算 | 初期費用、導入支援の単発売上 |
| 従量課金を含むサービス | 固定の定期料金。従量分を含める場合は別定義で記録 | 月ごとに変わる利用料金を無条件に固定収入扱いすること |
| 割引・無料期間がある契約 | 自社で決めた割引後または割引前の基準にそろえた契約額 | 無料トライアル、適用期間が終わる一時割引 |
| 複数通貨の契約 | 換算日と為替レートを固定した年額 | レートの違いを無視した単純合算 |
同じ会社でも、請求管理画面のARRと自社レポートのARRが一致するとは限りません。比較する前に、対象契約、割引、税、未払い、通貨の定義を並べます。
高いときに、次にやること
ARRが増えているときは、増加額の出どころを確認します。数字が大きくなったことだけで、顧客基盤が安定したとは判定しません。
| 開く場所 | 操作 | 判定 |
|---|---|---|
| 請求管理のARRまたはMRRレポート | 前月末と当月末を同じ条件で比較する | 期間の差や集計条件による見かけの増加を除く |
| 増減の内訳 | 新規・拡大・縮小・解約を金額順に並べる | どの要因が増加を作ったか特定する |
| 顧客・契約の一覧 | 増加額の大きい契約を開く | 新規契約か、アップグレードか、年額への変更か確認する |
| 解約・請求状態 | 未払い・キャンセル予定の契約を開く | 現在のARRに含まれるが、継続しない契約を分ける |
増加の大半が一部顧客に偏っていたら、顧客別のARRと契約更新日を保存します。Stripeを使っている場合は、ダッシュボードの「Billing」から「アナリティクス」を開き、MRRのチャートと内訳を確認します。
低いときに、次にやること
ARRが下がったら、年間の差額を眺め続けず、月額換算した減少額を顧客・プラン単位に分解します。ARRの減少額を12で割ると、毎月の経常収益でどれだけ縮んだかを比較できます。
| 順番 | 開く場所 | そこで確認すること |
|---|---|---|
| 1 | ARRまたはMRRの期間比較 | 同じ通貨・同じ割引ルールで前月と当月を比べる |
| 2 | 増減の内訳 | 解約・縮小・新規不足のどれが差額を作ったか見る |
| 3 | 顧客別の経常収益 | 減少額の大きい顧客を開き、解約日・プラン変更・席数を確認する |
| 4 | 請求書と支払い状態 | 未払いによる一時的な減少か、契約終了かを分ける |
| 5 | 契約・料金プランの設定 | 年額の月額換算、割引、無料期間、税の扱いを前月と照合する |
判定がつかない場合は、ARRの元になった契約一覧をCSVで出し、前月と当月で「顧客ID・プラン・月額換算額・契約状態・通貨」を突き合わせます。差分が契約側に無ければ、集計定義かレート設定の変更を先に確認します。
注意点
ARRを年間売上や入金予定額として扱わないでください。年額契約の入金月はキャッシュが大きく見えますが、ARRは継続契約を年額にそろえた指標です。解約予定、未払い、割引、返金、税をどう反映したかも記録が必要です。
| 落とし穴 | 起きること | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 年額の入金額をそのまま足す | 入金月だけARRが跳ね上がる | 契約期間と年額換算の列 |
| 単発売上を入れる | 継続契約の規模が実際より大きく見える | 商品・料金の課金種別 |
| ARRだけで健全性を判定する | 解約や未払いを新規契約が一時的に埋めた状態を見落とす | 増減内訳と顧客別ARR |
| 定義を途中で変える | 事業変化ではなく集計ルールの差が前月比に出る | 定義メモ、割引・税・無料期間の設定 |
最後に、請求管理画面の「Billing」→「アナリティクス」を開き、ARRの元になったMRRの期間比較と増減内訳を確認します。